風雪よよよ旅

大衆演劇 旅芝居 寄席的なものの旅

2019年振り返り・大衆演劇お芝居編(1〜3)

今年観劇記録を振り返って、6つの印象深かったお芝居のことを書き置きます。長くなってしまったので2回に分けます。

 

2月「水車小屋」森川竜馬劇団@木川劇場

森川劇団で演っていた古いお芝居とのこと。とある村の百姓家の前で繰り広げられる1幕1景の人情劇。お銀に三河家諒さん(ゲスト)、その父親に森川竜馬座長、他。

(あらすじ)

旅の男と駆け落ちして行く方知れずだった長女お銀が帰ってくる。お銀が頼母子講(たのもしこう)のお金も持って出たため、一家は村八分状態。 絶対に敷居をまたがせないと怒る父に、お銀が詫びて言う。

「男に言われて頼母子講のお金を持って江戸で暮らしていたが、お金の切れ目が縁の切れ目で男が帰ってこなくなった。途方に暮れて死のうとしたお銀を助けてくれたのが伊勢屋の若旦那。 店で雇ってもらい、やがて夫婦に。若旦那に家族のことを話すと、会いに行ってやれと暇をくれたから、こうして訪ねてきたんだ」

話を聞いて父はお銀を許し、家に入れる。 しかしお銀の話は嘘だった・・・

 (印象メモ)

麦飯の説明や、ぬかるみに気をつけろなど、父が娘に言う言葉が細やかで沁みる。 亡くなった母親の人柄も、父の語りから浮かんでくるような。

過ちをおかした娘を受け入れ、許すことで、良い方向に向かって行く話。お銀を追ってきた役人(錦蓮座長)の取る行動が、起承転結の「転」。ドキッとさせられた後、泣かされた。

観ていて、座長はこのお芝居がお好きなのだろうなあと思った。 「長いこと老け役と敵役ばっかりだったから、かっこいい役がまだ馴染めない」と笑っていた。

 

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森川竜馬座長 お芝居の扮装で口上

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三河家諒さん(ゲスト出演)



4月「昭和の男〜帰ってきた米次郎」近江飛龍劇団@羅い舞座京橋劇場

近江飛龍座長の十八番の復活狂言。すごく体力を使うとのこと。

(あらすじ)

侠客・八角米次郎が刑務所から帰ってきた。ムショ暮らし18年。世間はすっかり様変わり。岡島一家は「岡島建設」、親分は「社長」身内は「社員」に。米次郎が「坊ちゃん」と可愛がっていた岡島の2代目は、イケ好かない青年になって、米次郎をバカにし冷たい態度をとる・・・
八角の米次郎に近江飛龍座長、岡島建設社長に近江大輔さん、岡島の若に天海翼若座長(ゲスト)他。

 

(印象メモ) 

座長の濃いキャラ炸裂で、面白かった。
「わし、刑務所のコロッケって呼ばれてましてん」と言うセリフは、次の日なんども思い出して笑ってしまった。

「時代が変わって、古い男はもういらんのかい!」 「俺は死なない!」
そんな米次郎のセリフが座長のリアルに重なり、笑いながらもグッと来る。

若に「もう帰れ!」と言われ、ショックを受けた米次郎の仕草が、めちゃめちゃ可笑しい。 こういうギャグはY新喜劇も凌ぐインパクトで、大衆演劇ならではのコッテリ感と凄味ゆえと思う。

米次郎が去り際にお客さんから傘を借りて(4本!)幕。 この辺り、お客さんたちもちゃんと心得ているようだった。

美佳さんのざぁます女、天海翼さん(ゲスト)の倒れっぷりもよかった(痛かったやろな〜^^;)

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近江飛龍座長 お芝居の扮装で口上

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近江飛龍劇団 ラスト舞踊 手から傘が出て来る(手妻)

 

7月「江戸の夜話夢話」劇団朱光@篠原演芸場

 1幕1景の人情劇。すごく面白かった。役人に水廣勇太副座長、うどん屋に水城舞坂錦副座長、嘘つき源太に水葉朱光座長、他。

お人好しの役人とうどん屋が「嘘つき源太」になんども騙される話で、都合3回に渡って騙される。

  1. 江戸屋さんの財布を拾った。中には20両と2分の銭。 それを増やしてやろうと博打に行ったが全部すってしまった。せめて財布だけでも返したい。
  2. 1千両の富くじが当たった!これで芸者衆を呼んでどんちゃん騒ぎしたいが、 予約金が要る。
  3. 信州小諸に病気の母と目の見えない妹がいる。最後に一目なりとも会いたい。

「2」で、源太に3階建ての家を建ててやると言われたうどん屋が、家財一切合切を川へ投げ捨ててしまい(この時の投げっぷりがすごくて声を上げてしまった)、明日から商売できない状態に。

「3」で、役人もうどん屋も着物を全部脱いで「金の足しに」と源太に渡してしまう。

騙されながらも役人が 「俺たち2人で3人(源太とその母と妹)が助かるんだからいいじゃねえか」と言い、うどん屋も納得(←納得するんかーい^^;)。

2人が去った後、源太が出てきて、全て芝居だったとバラし、一芝居打ってくれた女にも5両の金を振る舞う。 ここで終わりと思いきや。 源太が 「俺の話を全部聞いてくれた」と、役人とうどん屋の真心を受けて、改心を誓うのである。

「お客さん、あっしのこと、悪い野郎だなあって目で見てますね」 と、客席に向かって問いかける源太。騙された2人を気の毒に思っていたので、この源太の問いかけにちょっとホッとする。

源太は根っからの悪いやつではなかった。その布石として、くすねた金を独り占めせず、じゃんじゃん振る舞うなど、切っ風の良さを滲ませられていたことに、この時に気づいた。

人を信じきるとは、生半可なことでじゃなくて、ここまで身を呈してこそ、開かずの扉が開くのだ・・・なかなかできないけれど、考えさせられた。


大衆演劇の人情芝居。やっぱりいいな。

 

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水葉朱光座長

 

次は:

  • 8月 劇団鯱@鈴成り座 陽之介&政次祭り「男人情花」
  • 10月 桐龍座恋川劇団@朝日劇場森の石松
  • 12月 浪花劇団@羅い舞座堺駅前店「妻吉物語」

です。 

 

 

 

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