2019年振り返り・大衆演劇お芝居編(4〜6)
8月 劇団鯱@鈴成り座 陽之介&政次祭り「男人情花」
やくざ渡世の義理と人情を描いた定番のお芝居。特別に凝った言い回しはなく、おなじみのセリフが続くのだけど、2人のベテラン(葵陽之介座長・朝陽政次座長)が丁々発止で演じるとどうだろう。言葉の1つ1つが異様な強度で、迫ってくる。演じる人でこうも変わるのかと、圧倒された。
親分が黒いものを白といえば白と言わねばならない渡世の世界。親分が望めば、たとえ自分の恋人であっても仲をとりもち、自分は身を引く。それが渡世人だ。しかし・・・
「わたしとこの子を連れて逃げておくれ。たとえ3日、いや、2日1日半日でもいい。親子3人、川という字で寝てみたい」
望まぬ結婚をさせられた女(美鈴華梨さん)は、毎日が地獄だった。
だからもう死ぬつもりで、最後の願いを真に愛する男にぶつけた。
男はようやく「義理」より「情」を選んで、逃亡をはかる。
すぐに追っ手がかかる。筆頭には男の弟分…
女が死に、男も自ら腹を刺す。そして最後の力で女の亡骸へと這いずって、女の顔についた血を、手ぬぐいで拭う。愛おしそうに見つめ、詫びる。この場面、観ていて胸が苦しくなるほど真に迫った。
終演後、セリフ合わせも立ち稽古も無しで(つまりぶつけ本番)上演されたと言う。「昔めちゃめちゃ怒られながらやってたんで。やってる間にもどんどん思い出すし」と、弟役の朝陽政次座長。「(祭りのメンツにかけて)もう必死」と笑う陽之介座長。ひええ。稽古なしであの舞台とは。いや、だからこそあの緊張感、臨場感。大衆演劇の底力やと思った。
若座長が、彼にとって父と父の先輩の芝居を舞台袖から見て「いつもと違うやり方で勉強になった、思わず泣いてしまった」と明かしていた。
ラスト舞踊「雪女」朝陽政次座長(左)葵陽之介座長(右)
10月 桐龍座恋川劇団@朝日劇場「森の石松」
明るい幕開けなのに、すでにどこか悲劇の匂いがする。
そう感じられた時のお芝居は、いい。
序幕、客席通路を陽気に歩いてくる石松(二代目恋川純座長)。振り向いてニカッと笑う。1時間後には、この笑顔はもうないのだ…そんな予感がよぎって、ドキドキする。
浪曲「清水次郎長伝」の一節がお芝居になった「森の石松」は悲運の物語である。親分の名代で金比羅代参の帰り、通りかかった都田村で、都鳥一家に30両貸してしまったが最後、命を狙われることに…
とびきり明るい性格。剣を持たせば鬼より怖いが単細胞。
清水に戻るまで絶対刀を抜くなという親分との約束を、「ど」がつくほど頑なに守り抜く、滅多斬りにされながらも。
瀕死の身体で、無傷の刀を高々と上げて喜ぶのだが、次の瞬間、途方もない孤独と「死」が、石松に襲いかかる。たった1人で死んでゆく石松が、かわいそうでかわいそうで、観ていられない場面である。
笑いあり、緊張あり。涙あり。
細やかな心理描写で、石松の気持ちが手に取るように伝わってきた。
12月 浪花劇団@羅い舞座堺駅前店「妻吉物語」
堀江六人斬りという実際にあった事件をもとに立てられたお芝居とのこと。
芸者の置屋山梅楼の主人(浪花三之介さん)が、妻(大川龍子さん)の浮気に激怒。酔った勢いで、刀を振りまわしたため、芸者たちが巻き添えに(妻は逃亡)。娘の妻吉(浪花めだかさん)も両腕を落とされてしまう。踊りの名手だった妻吉の運命は…。
3度、泣きのヤマ場がある。
1つめは「怒り」。店も家もめちゃめちゃにした母を罵る妻吉。
2つめは「絶望」。獄中の父が妻吉の腕を切ったことを知らないと知って愕然とする妻吉。「うちの腕を返して。片腕でもいい。踊る腕を返して。なあ、お父ちゃん…!」
最後、3つ目は「許し」・・・
妻吉がヤマをあげるたびに「めだか!!」とハンチョウが飛び、大きな拍手が起きる。皆泣きながら。
観終わった後、しばらく惚けてしまう舞台だった。 以前観たのは3年前だったか、その時より演出が強化されていたと思う。
女性がメインで活躍し、その脇を男性陣がしっかり締められた安定感のあるお芝居。主演のめだかさんの演技が自然。まるい声での台詞回しが、心地よい。母親役の大川龍子さんとの大詰めの時の舞台はもう異次元だ。 浪花三之介さんの「狂気」も凄まじかった。
劇中で実際に踊る場面が見たいかも。絶対に素晴らしいはず。