風雪よよよ旅

大衆演劇 旅芝居 寄席的なものの旅

お芝居「菊一輪の骨」を観て つばさ準之助座長の"氣"

「菊一輪の骨」または「ドスと草鞋と三度笠」とも。
もとは「槍供養」「下郎の首」という侍もののお芝居があり・・・

主人の名刀を預かる下郎が、旅の途中の茶店で悪い侍に粗相をしてしまった(実はハメられた)ことから刀を取り上げられ、「返して欲しくばお前の主人が土下座するかお前の首を持ってこい」と無茶を言われる。

下郎が宿に帰ってそのことを主人に話すと、主人は「自分の名誉や刀よりお前の命が大事だ」との寛大な言葉。しかし下郎は気が収まらず、自ら腹を切る。主人は泣く泣く下郎の首を切り、悪い侍の宿に乗り込んでいき、成敗する・・・

 ざっとこんなストーリーで、大衆演劇ではよくかけられる定番のお芝居の1つ。
「菊一輪の骨」は、これのやくざ版です。

個人的には下郎が可哀想すぎて、当たると辛いお芝居で、、
先日、劇団寿とゲストの劇団つばさの2人を観たくて此花演劇館に行ったら、このお芝居でした。

しかし、これまで観た「菊一輪の骨」とは様子が違いました。

1番の違いは、悪い方の親分=吉良勘助が「悪い親分」ではないことです。

驚きました。

吉良勘助は、赤穂今朝治の子分・菊松が持っていた名刀・静三郎兼氏を見て、どうしても欲しくなってしまい、酒の勢いもあって、刀を取り上げた。
そのことを後悔しながら過ごしていたところに、赤穂の今朝治がやってきた。
手にしていたのは菊松の首・・・

もう遅い。

吉良勘助は自分の非を認め「思い切りやってくれ(斬ってくれ)」と、今朝治の前に座る。

すると吉良の子分たちが親分の命乞いをする、
最初に悪かったのは自分たちだ、どうか許してくださいと・・・

これには赤穂の今朝治も、立つ腹堪え、振りかざした刀を収めます。

奪われた名刀も取り返して立ち去ろうとする今朝治を、勘助が「今一度」と引き止め、自ら小指を切り落とし、詫びを入れるのでした。

 

吉良勘助を演じていたのは、つばさ準之助座長(ゲスト出演)。
名うてのやくざ一家の親分が、刀欲しさに愚かなことをしたと恥じる気持ちがひしひしと伝わってきました。

つばさ準之助座長は舞踊の専門家で、お芝居をするようになったのは数年前とのことですが、なんだなんだこのエモーショナルな吉良勘助は・・・

 

幕切れ。

赤穂の今朝治一行が去り、誰もいなくなって、吉良勘助がただ一人座っている。
お芝居の終わりを告げる柝頭が「チョンチョンチョンチョン…」と響く中、勘助が小指を落とした青い顔のまま、頭を深く深く下げる・・・

その青ざめた顔、突っ伏した背中を観て涙が自然にこぼれました。

 

最後の最後まで詫び続ける吉良勘助が焼きついて離れず、
わたしの中で、このお芝居の主人公は完全に吉良勘助になってしまいました。

準之助座長のアレンジなのか、それともこういうパターンが存在していたのか。

まだまだ色々な演りかたがあるかもしれない「菊一輪の骨」。
いっぺんに気になる1本になりました。

 

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つばさ準之助座長

 

(2020.9.3 劇団寿@此花演劇館)

 

 

 

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