2020年振り返り・大衆演劇お芝居書付(前編)
「恋慕草鞋 義仲の卯之吉」戟党市川富美雄
(10月28日夜@木川劇場)
よかったなあと思うお芝居には、3つの「よかった」があると思う。
1つ目は、物語そのものの良さや斬新さ。
2つ目は、目に焼きけられ、胸に迫る演技。
そして3つ目は、言葉の美しさやハッとさせられる表現。
「恋慕草鞋 義仲の卯之吉」は、この3つ目の「言葉」の面に、何度もハッとさせられました。
舞台は木曽の巴淵(ともえがふち)を見下ろす峠の村。
その淵の様子や、土地の名物が、登場人物が語る台詞に折り込まれ、その村の景色や暮らしが浮かび上がります。
物語は炭焼き娘のおくみと渡世人卯之吉の悲恋。
祖父の富蔵がおくみを自慢して言う台詞が美しい。
「真っ黒なねずこ炭を焼いていても おくみの心は白無垢だ」
富蔵と卯之吉が、富蔵を恨む輩を追っ払ったまでは良かったのだけど、報復を受けてしまう。それも一番辛い形で…。
「おらぁ、きっとあの世は餓鬼道で 腹ぁ空かせて夢も見ねえだろう」
富蔵の嘆きの台詞。心にあいた穴の、ふさぎようのない虚しさが響くよう。
中盤、花畑におくみと卯之吉が佇む場面はあたたかな夢のようで、思い出してはじんわりしてます。
長谷川伸さんの流れを汲む梅澤龍峰さんの作と伺い、膝を打ちました。
「縁を結ぶ糸車」優伎座
(3月24日夜@鈴成り座)
以前ブログにも書いているお芝居(記事はこちら)で、2時間近い大作です。
時代は江戸から明治。生き別れた娘を生涯かけて探す男の物語。
途中、2人は、運命の糸車にたぐり寄せられるように近づくのですが、寸前のところでプチンと切れて、離れてしまう。
その時の、男の慟哭たるや。
市川英儒さんの演技から、心の軋む音が聞こえるようでした。
男が運命や時代の流れにあらがい続けるのに対し、娘の方はひたすら運命を受け入れ、流されながら生きている。
最後の最後で、男の執念が勝ったか、運命の糸車がくるくると・・・
「わたし、これまでおとっつあんに願い事したこと、ある?」
大詰めの娘の台詞です。流され続けた娘が、初めて口にした願いとは。この辺りからわたしのマスクの中は涙の海で大変なことになっておりました;;
「春の雪」劇団春駒
(6月25日夜@木川劇場)
二代目美波大吉座長のオリジナル狂言。
舞台はある渡世人一家。
堅気になって結婚すると言う兄貴分の男(二代目美波大吉座長)を、寂しさを噛み締めながらも送り出す弟分(遙座長)。
そこに一家宛に喧嘩状が。男は最後の務めだと一人喧嘩場へ出向く。「自分にもしものことがあったら、女房を頼む」と弟分に託して・・・
物語が動き出すのは10年後(?うろ覚えですみません)。
喧嘩の罪で刑罰を受け、ようやく帰ってきた男を待っていたのは女房の死。
一体何が。
「上演はまだ3回目なのでもっと良くしていきたい」と舞台口上で大吉座長。
確かに荒削りなところもあるけれど、それを埋めてあまりある両座長の演技に釘付けでした。
大詰めの立ち回りは凄まじい「斬り合い」。
ただ刀を振り回すだけではなく、一太刀、一太刀、叫んでいるようで。
「お前が悪いんだ。約束を破って、お前だけ」と、弟分。
逆恨みなのに、迫力に押されて、つい正当化してしまいそうになり、困りました^^;
ぶつけられる兄貴分の男の悲しみもまた、爆発して・・・
大吉座長の自然な泣きの演技と、遙座長の言葉を発するような殺陣。
かかることがあればまた観たいです。
「因果は廻る狂々と1・2」劇団荒城
(1月24日夜@篠原演芸場)
この日、観終わった後に書いたメモから:
「荒城マニアの日」
劇場に入るとずっと雨の音が流されている。
ほぼ満席。お芝居2本なので、舞踊ショーはあっという間に終わった。
女形は無し。みんなとっとと出てきてとっとと終わってゆく感じ。
このバッサリ感はすごい。
ここまできたら気持ち良い。お芝居は笑い一切なしの3時間、終わったのは22時。ひええ・・・
・・・てなことを書いてました^^;
書き直すよりそのまま載せた方が臨場感が伝わるかもなので、続き載せます:
おまち役の蘭太郎さんが好演。
ジュウザの立ち回りは、ほんまに肉を断つ感じ。
正視出来ないほどの怖さ。速さ、重さ、陰惨さ。全てにおいて、別物。
なんというか、感情がこもっているのだ。
森の場面の舞台セットが効いていた。
木が描かれた板が、何枚か並べられ、その奥で傴僂の男が歩くと、ちょうど木と木の向こうから見え隠れするよう見えて、ゾッとした。
真実をバラされる。
おまちが親分を殺し、ジュウザを救う。
傀儡の男が言う「筋書き通りだ」・・・
荒城ワールドにどっぷり浸かる3時間。
「1」と「2」の同時上演で、特に「2」の方は、いくつもの伏線があっての展開なので、一度観ただけでは十分に味わい尽くせないところもあって、また観たいと思っていたら、この後、コロナで東へ行くことが叶わなくなってしまいました涙
後編4つまた書きます どうぞお付き合いください・・・