風雪よよよ旅

大衆演劇 旅芝居 寄席的なものの旅

2020年振り返り・大衆演劇お芝居書付(後編)

2020年に観たお芝居の印象深かったものを綴る後編です:

(後半はこの4本)

 

「菊一輪の骨」劇団寿&劇団つばさ

(2020.9.2夜@此花演劇館)


加害者側の心情が胸に迫る

以前ブログに書いた通りで、敵役・吉良勘助を演じるつばさ準之助座長の、悲壮な表現に引き込まれ、マスクの中に涙が溜まってしまって困りました。

名うてのやくざ一家の親分が、刀欲しさに愚かなことをしたと恥じる気持ちがひしひしと伝わってきました。 


幕切れ、皆が立ち去った後、吉良勘助がただ一人座っている。

お芝居の終わりを告げる柝頭が「チョンチョンチョンチョン…」と響くなか、勘助が切り落とした小指のあとをかばいながら、両の手をつき、深々と頭を下げる・・・

痛みと悲しみに青ざめた顔、突っ伏した背中にのしかかる自責の念。

加害者側の心情が強く印象付けられたエンディングに、演出1つでこんなにも印象が変わるんだと、知らされた1本です。

 

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つばさ準之助座長(劇団つばさ)

 

「あっぱれ同心」劇団寿

(2020.6.30千穐楽@あがりゃんせ劇場)

 

寿翔聖座長のオリジナル・千穐楽にぴったりのお芝居


(あらすじ)

筆頭同心・藤田イボジは、自分の出世のために、文之丞一座の文七(寿美空)にあらぬ罪を着せ、島流しにした。刑を終えた文七は、イボジに復讐するため、女に化けて近づき、酒を飲ませて…

 

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寿美空若座長 「七化けの文七」の扮装で

 

文七の復讐がちょっと凝っていて、殺すのではなく「無実の罪を着せる」ところがポイント。

その文七が仕組んだ犯罪の真相を探すのが、主人公の同心(寿翔聖座長)と岡っ引きの三次(寿福丸)。

この2人、つまり実の父子が繰り広げるやりとりがとっても面白い。

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寿翔聖座長


岡っ引が舞台からはける時に、わざわざ遠回り(客席中央の花道)を命じる同心。

役の特権を行使する父に「またですかい?」と、うんざりしながら従う息子。

13歳の息子の演技に「大きくなったなー」と目を細める父に、ちょっとほろっとさせられたり。

大詰めは、客席もお芝居の一部となり、1ヶ月お世話になった劇場への感謝を込められる趣向にもジーン。

劇中劇が好きなのと千穐楽の高揚感とが相まって、感動もひとしおでした。

 

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千穐楽は楽しくてちょっと寂しくてやっぱり楽しい~



 

「すりの家」たつみ演劇BOX

(8月14日夜@羅い舞座京橋劇場)

 

たつみ座長演じる庄吉は江戸っ子と関西人の無敵のハイブリッド!?
小道具にもシビれる

 

初見は2016年で、もう1度観たいと思っていたお芝居。なかなか当たらないなーと思っていたら、口上でも「久しぶりにやりました」と言っておられました(2年ぶりと言われたかな?)

 

長谷川伸の脚本「掏摸の家」を大衆演劇版にアレンジされたそうで、すりの夫婦が主人公のテンポの良い楽しい人情劇です。

幕開け「ボーッ!ボーッ!」と、大きな汽笛が京橋劇場に鳴り響く。

そうそうこんなんだった…と4年前の記憶が蘇ってワクワク。

小泉たつみ座長演じる「すり」の庄吉は、明るく豪快で座長にぴったり。ハイテンションになればなるほど面白いので、この役であればどんなに暴走しても大丈夫(周囲は大変かもですが…笑)。

 

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小泉たつみ座長 庄吉の扮装で

 大金を手に入れて、思いつく限りのハイカラファッションで帰ってくる庄吉が、早口でまくし立てる場面も、滑舌が良いので気持ちよく、聞き惚れました。

たつみ座長が江戸っ子を演じるとき、エンジンが関西人なので(笑)、もはや無敵な気がします。

女房役の辰己小龍さんも、この夫にこの妻ありで、フツーじゃない気っ風の良さ。

・・・と、演技もストーリーも面白いのですが、もう1つ、このお芝居、たくさんの小道具が出てくるのです。家財道具に、たくさんの着物、お弁当包みにあんパン・・・

平日の「特選狂言」と謳われていない演目なのに、メンバー総出演で、この凝りようたるや、恐るべし。

途中、ホロリとさせられ、最後にまた爆笑が待っています。
本当に楽しいお芝居!

 

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小泉たつみ座長

 

  

「峠の残雪」澤村慎太郎劇団

(2020.7.26夜@浪速クラブ)

 

 力強く心が見えるような演技と、高速雪

昨年の4月、浪速クラブでこのお芝居がかけられた時、大幅に遅刻してしまい、最後の10分しか観られませんでした。

劇場の扉を開けたら、舞台はクライマックス。
紙吹雪と客席の熱気が混沌となった空気がワッと押し寄せてきて、意識がふわふわしました。

いきなりクライマックスのテンションを浴びることができるのは、遅刻者の唯一の特権です(あとは何も良いことはない…悔しいばかり^^;)


「このお芝居は1回演ったら半年はしたくない(めちゃ疲れるので)」
と、座長が口上で言われるのを聞いて以来、再演を待っていたら、昨年と同じ浪速クラブで!

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澤村慎太郎座長 お芝居の扮装で


生き別れた兄弟が再び出会い、親の仇討ちをする物語で、色々な劇団で演じられているお芝居です。
兄は喉をつぶされたためうまく喋れず、弟は目が見えない。
目の見えない弟に、自分こそが兄であると、懸命に伝える場面に、演者の熱がほとばしります。

このお芝居も、直後に書いたメモをそのまま載せた方が、臨場感が伝わるかもで、以下に記します:

 

序幕の雰囲気がとても良い。
どっぷりお芝居の世界。
2場の幕開けの構図もカッコいい。

毒入りの酒を飲まされ、口が聞けなくなった兄。
灰をかけられ、目が見えなくなった弟。

(10分休憩あり)

第3場 1年後、雪降る町。

劇伴がいい。よく作られていると思う。

 

「めくら」「おし」と言う言葉を使わないよう配慮している。
差別語が出てくるのは、悪役が暴言を吐く時だけ。

  

クライマックス。
兄が、天国にいる父に「弟と2人でそばに行くからな…」と言いたいのを、右手の親指と左手の2本指を近づけるジェスチャーで訴える。
力強く、心が見えるよう。

もう死ぬというとき、雪の中に「お墨付き」を見つけ、顔色を変える。
瀕死の身体で、雪をかき分け探す。
この時、わざと雪をザバーッと散らすところが格好いい。
ようやく探り当て、天に向かってお墨付きをかかげ、
ひときわ大きな、大きな、声にならない声で叫ぶ。

慎太郎座長の股旅姿はとても良い風情。
体格がいいので、迫力がある。
大袈裟な演技でも、あざとさがない。とてもストレート。

 

浪速クラブの舞台は、天井がそれほど高くないので、雪があっという間に落ちてくるから、スピード感が増すように思う。

背の高い人が3人出てきて立ち回りをすれば、舞台がいっぱいになる感じ。
そんな舞台のサイズも、味になっていると思う。

 

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澤村慎太郎座長 頭の上に雪が

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澤村慎太郎座長

 

後半、やや長くなってしまいました。
なんとか書けてよかった・・・
長々とすみません、お読みくださりありがとうございます(涙)

2021年、不安も含みつつですが、出来る限り足を運びたいです。
また1年、お付き合いいただければ嬉しいです!

* 「念仏藤兵衛」(剣戟はる駒座@6月配信)はまた別途書きたいと思います~~
   (こちらも本当に良いお芝居!)

 

 

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