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「座長頑張る日」のこと2 優伎座 市川英儒座長の舞踊(「お梶」「お吉」「三線の花」)

 「『座長頑張る日』のこと1」の続きです。

 

お芝居仕立ての舞踊2本

優伎座・市川英儒座長がメインとなる「座長頑張る日」の舞踊ショー。

この日は女形舞踊の大作が2本も!目と心が忙しすぎました。
(以下、写真は全て座長の許可をいただき掲載させてもらっています)

 

「お梶」

暗転から板付で登場。

手持ち行燈で登場と思いきや
据え置き型の行燈を引きずって舞台中央へ

市川英儒「お梶」
2023.7.26 羅い舞座京橋劇場

多くの役者さんが勝負の1本として踊る「お梶」
英儒さんにかかればこうなるのかーーー
大胆な所作にゾクゾクさせられたかと思うと
次の瞬間、

恐れと憂いをたたえた表情に。

照明もお梶の心に呼応するように変化

ふたたび行燈とともに去るお梶

まるで行燈が分身か、唯一の支えのように…
わずかな光に吸い込まれて影だけが残る

 

「お吉物語」

市川英儒座長「お吉物語」

滅多に踊らない1本とのことで
わたしも初めて当たりました。

お吉を歌った歌をいくつかつなげて
お吉の生涯を舞踊で演じる

袖から出された赤い志古貴
お吉の心から流れる血のよう
艶やかだからなおヒリヒリする

お梶もお吉も待っているのは悲しい結末。
英儒さんはどちらもその一歩前で去っていく。

英儒さんが踊るのは、この世の人たちに、話を聞いてもらいたくて降りてきた亡き人の「魂」の踊り…そんなことを思いました。
お能のシテの舞に近いかも知れない。

 

ラスト舞踊の前に、もう1本座長の個人舞踊。
しかも「三線の花」!

イントロで客席から悲鳴が。
わたしも嬉しすぎて叫んでました笑

三線の花

市川英儒「三線の花

紗合の生地にひまわり模様。
こんな取り合わせは大衆演劇ならではですよね。
この歌と英儒さんに、めちゃめちゃ合ってる。

英儒さんの「三線の花」は
島唄づくしの万華鏡。

三線を弾いたり

お酒を飲んだり
語るような当て振り
島の家族の情景が浮かび上がる

エイサーパートでは
手足を千切れんばかりに投げ出して踊りまくる!

やがて歌のエンディング
ピアノが力強く鳴り響くなか
最後の最後で
沖縄の三板(サンバ)を叩く仕草

カチャーシーや!
これをエンディングに入れるなんて素敵すぎるーー

私的「座長頑張る日」の興奮マックスポイントで、めちゃめちゃ満たされました。

そう、英儒さんの渾身の1本は、童心に帰ってワクワクしたり、胸が締め付けられるような懐かしいものに会えたり、人間の力ってすごいなあと思わず涙が出たり…感情が忙しくて、その時は興奮状態なのですが、観終わった後、心の中がただただ綺麗なものでいっぱいになっているのです。

 

ラスト舞踊「新門辰五郎
粋な江戸っ子たちがかっこいい!



心が満たされる舞踊

少し前、図書館で目に留まった真っ赤な表紙の本。

「日本舞踊 舞踊劇選集」

40近くの台本が載っていて面白そう!
と思って借りたものの
どうするねん、この分厚さ

なんと934ページ
貸出期間の2週間では
到底読めそうにないのですが^^;

作品に添えられた舞台写真がいい写真ばかり
中でもこちら、
西川鯉三郎さんという役者さんの舞台姿に釘付け

 


調べたら日舞西川流という流派の二代目家元。
首の傾け方や手の表情、膝の曲げ方、、
言葉がなくても伝わってくるものがありますよね。
時代を越えて受け継がれ、磨かれた芸(技術)の凄さを知らされます。

 

これらの写真を見ながら、ふと「座長頑張る日」の英儒さんを思い出しました。

独特の雰囲気の中にも
芸能の先達の技が溶け込んでいる。
現代と過去、あの世とこの世が交差して
心が満たされてゆく舞踊。
力強さと、儚さと。

憑依型役者・市川英儒座長は、やっぱりどこまでも、どこまでも「まれびと」な存在だと思うのです。

 

■「日本舞踊 舞踊劇選集」
監修:西川右近
発行:財団法人西川会
平成14年 934ページ

 

 

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