風雪よよよ旅

大衆演劇 旅芝居 寄席的なものの旅

こんなお芝居が観たくて大衆演劇に通うのだなあと思った『忠治一人旅』三桝屋@尼崎遊楽館2022.1.22

「忠治一人旅」は、北関東の大侠客・国定忠治が赤城の山を降りて、役人に追われながらの旅の途中に起きた出来事を描いたお芝居。

もとを辿れば新国劇浪曲、講談など数々の名演があり、大衆演劇でも「忠治と山形屋」などのタイトルで、いろいろな劇団で演じられている定番中の定番狂言です。

もう何度となく観ているので、個人的にはわざわざ選んでは観ないな〜な、お芝居の1つでした。

今年1月に尼崎遊楽館で観た三桝屋の「忠治一人旅」は、そんな倦怠感を覆させられる、とても楽しく、心に染み入るものでした。

 

序幕の赤城山の場面。

「赤城の山も今宵限り…」の名台詞で知られる場面です。

隆盛を極めた国定一家の終焉。

忠治を真ん中に子分たちがかしこまり、山を渡る雁の声に聞き入る。

ここで、どんな経緯で赤城の山に立て篭もることになったかを忠治が語るのですが、実に朗々と、淀みなく、謡うような語りで、聴き惚れました。

 

市川市二郎 劇団責任者

 

寂しさが極まったところで、おむもろに忠治が刀を抜き、仁王立ち。


「加賀の国の住人、小松五郎義兼が鍛えし業物。万年溜の雪水に浄めて、俺にゃあ生涯てめえという、強え味方があったのだ…」

と、これまた有名な台詞を言うのですが、

市川市二郎さん演じる忠治は違った。少し演じ方を変えていました。

わたしは、この演じ方(解釈)が、とても腑に落ちて、忠治の孤独がより沁みました。

何気ない、僅かな改変なのですが、元々の「忠治」を損なうことなく、さらに納得のいく忠治像に。

 

この日は決して多くない客席でしたが、全員が全員、大きな拍手。声こそ出せませんが、みな「ええもん見た!」と、興奮。

序幕だけで「ああ今日来てよかった」と満たされた感がありました。

 

序幕は、忠治一人の見せ場でしたが、ここから先は、劇団全員でお芝居が作られていきます。

第二場は、序幕から一転、舞台は町中。

忠治に助けられる百姓を演じた女性(お名前わからず)の、演技のうまさに唸りました。

はじめは「やくざ者は嫌いだ」と忠治を訝しげに見ていたのが、万策尽きて、藁にもすがる思いで、忠治に身の上を打ち明けるとき、粗末な着物の裾を丁寧に直し、両の手を地面に揃えて、身体を丸めるように、頭を下げる。

この仕草に、女性の心の痛みと窮状が見えるようで、胸が詰まりました。

それを受け止める忠治の義侠ぶり。

 

第三場は、お馴染み「山形屋」の場面。

ここでは山形屋藤蔵演じる真珀達也座長の体を張った悪役ぶりが秀逸。悪いのにどこか憎めない、愛嬌と色気のある山形屋に、新国劇緒形拳を彷彿させられもして。お腹の皮がよじれるくらい笑いました。

 

真珀達也座長

 

そして大詰め。暗がりの中、ドンドンドン…と、太鼓が鳴り響き…

 

幕が閉まって、時計を見ればジャスト1時間。お見事。
周りにいた方と「面白かったですね」と思わず言い合ってしまいました。

 

「忠治一人旅(忠治と山形屋)」、こんなにいいお芝居やったんや。

 

BGMも効果的で、劇伴に動きが合っていて(合わせていて)、テンポが良く、忠治などはまるで踊っているかのよう。

半年経った今でも思い出せます。

ストーリー自体がシンプルなので、絵になる場面や、胸に迫ったセリフなどが、余計記憶に残りやすいのかもしれません。


何度も演るうちに練られて、この形に完成されたのだろう三桝屋の「忠治一人旅」。


「こんな風情のお芝居が観たくて、大衆演劇に来てるんだなあ」

そう思いました。

 

「定番」と言われるお芝居は、やっぱりよく出来ている。

それらはどうして、どうやって「定番」になり得たのだろう。

物語の良さだけではなく。真摯な演出と演技によって息が吹き込まれ、時代を超えても生きていく。

簡単じゃなく、奇跡に近いとさえ思います。

 

ちょっと話が飛躍してしまうかもですが、ウェブ版「カンゲキ」の連載「舞台裏の匠たち」の丸床さんのインタビューの言葉を思い出しました。

今、大ちゃんも、太一くんも、天才って言われるじゃない。だけど当時の稽古を見ていた俺からすると、天才じゃなくて、努力の人。あれだけしごかれりゃ、上手くなるって。 だから、大ちゃんも、太一くんも、同じ曲を踊ってても、何回でも観たくなるの。

 

 

三桝屋

三桝屋『忠治と山形屋

もう一度観たくて、公演先の劇場が発表するお外題を気にしながら、どうか行ける日に当たりますようにと願っているところです。

 

 

2020年振り返り・大衆演劇お芝居書付(後編)

2020年に観たお芝居の印象深かったものを綴る後編です:

(後半はこの4本)

 

「菊一輪の骨」劇団寿&劇団つばさ

(2020.9.2夜@此花演劇館)


加害者側の心情が胸に迫る

以前ブログに書いた通りで、敵役・吉良勘助を演じるつばさ準之助座長の、悲壮な表現に引き込まれ、マスクの中に涙が溜まってしまって困りました。

名うてのやくざ一家の親分が、刀欲しさに愚かなことをしたと恥じる気持ちがひしひしと伝わってきました。 


幕切れ、皆が立ち去った後、吉良勘助がただ一人座っている。

お芝居の終わりを告げる柝頭が「チョンチョンチョンチョン…」と響くなか、勘助が切り落とした小指のあとをかばいながら、両の手をつき、深々と頭を下げる・・・

痛みと悲しみに青ざめた顔、突っ伏した背中にのしかかる自責の念。

加害者側の心情が強く印象付けられたエンディングに、演出1つでこんなにも印象が変わるんだと、知らされた1本です。

 

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つばさ準之助座長(劇団つばさ)

 

「あっぱれ同心」劇団寿

(2020.6.30千穐楽@あがりゃんせ劇場)

 

寿翔聖座長のオリジナル・千穐楽にぴったりのお芝居


(あらすじ)

筆頭同心・藤田イボジは、自分の出世のために、文之丞一座の文七(寿美空)にあらぬ罪を着せ、島流しにした。刑を終えた文七は、イボジに復讐するため、女に化けて近づき、酒を飲ませて…

 

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寿美空若座長 「七化けの文七」の扮装で

 

文七の復讐がちょっと凝っていて、殺すのではなく「無実の罪を着せる」ところがポイント。

その文七が仕組んだ犯罪の真相を探すのが、主人公の同心(寿翔聖座長)と岡っ引きの三次(寿福丸)。

この2人、つまり実の父子が繰り広げるやりとりがとっても面白い。

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寿翔聖座長


岡っ引が舞台からはける時に、わざわざ遠回り(客席中央の花道)を命じる同心。

役の特権を行使する父に「またですかい?」と、うんざりしながら従う息子。

13歳の息子の演技に「大きくなったなー」と目を細める父に、ちょっとほろっとさせられたり。

大詰めは、客席もお芝居の一部となり、1ヶ月お世話になった劇場への感謝を込められる趣向にもジーン。

劇中劇が好きなのと千穐楽の高揚感とが相まって、感動もひとしおでした。

 

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千穐楽は楽しくてちょっと寂しくてやっぱり楽しい~



 

「すりの家」たつみ演劇BOX

(8月14日夜@羅い舞座京橋劇場)

 

たつみ座長演じる庄吉は江戸っ子と関西人の無敵のハイブリッド!?
小道具にもシビれる

 

初見は2016年で、もう1度観たいと思っていたお芝居。なかなか当たらないなーと思っていたら、口上でも「久しぶりにやりました」と言っておられました(2年ぶりと言われたかな?)

 

長谷川伸の脚本「掏摸の家」を大衆演劇版にアレンジされたそうで、すりの夫婦が主人公のテンポの良い楽しい人情劇です。

幕開け「ボーッ!ボーッ!」と、大きな汽笛が京橋劇場に鳴り響く。

そうそうこんなんだった…と4年前の記憶が蘇ってワクワク。

小泉たつみ座長演じる「すり」の庄吉は、明るく豪快で座長にぴったり。ハイテンションになればなるほど面白いので、この役であればどんなに暴走しても大丈夫(周囲は大変かもですが…笑)。

 

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小泉たつみ座長 庄吉の扮装で

 大金を手に入れて、思いつく限りのハイカラファッションで帰ってくる庄吉が、早口でまくし立てる場面も、滑舌が良いので気持ちよく、聞き惚れました。

たつみ座長が江戸っ子を演じるとき、エンジンが関西人なので(笑)、もはや無敵な気がします。

女房役の辰己小龍さんも、この夫にこの妻ありで、フツーじゃない気っ風の良さ。

・・・と、演技もストーリーも面白いのですが、もう1つ、このお芝居、たくさんの小道具が出てくるのです。家財道具に、たくさんの着物、お弁当包みにあんパン・・・

平日の「特選狂言」と謳われていない演目なのに、メンバー総出演で、この凝りようたるや、恐るべし。

途中、ホロリとさせられ、最後にまた爆笑が待っています。
本当に楽しいお芝居!

 

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小泉たつみ座長

 

  

「峠の残雪」澤村慎太郎劇団

(2020.7.26夜@浪速クラブ)

 

 力強く心が見えるような演技と、高速雪

昨年の4月、浪速クラブでこのお芝居がかけられた時、大幅に遅刻してしまい、最後の10分しか観られませんでした。

劇場の扉を開けたら、舞台はクライマックス。
紙吹雪と客席の熱気が混沌となった空気がワッと押し寄せてきて、意識がふわふわしました。

いきなりクライマックスのテンションを浴びることができるのは、遅刻者の唯一の特権です(あとは何も良いことはない…悔しいばかり^^;)


「このお芝居は1回演ったら半年はしたくない(めちゃ疲れるので)」
と、座長が口上で言われるのを聞いて以来、再演を待っていたら、昨年と同じ浪速クラブで!

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澤村慎太郎座長 お芝居の扮装で


生き別れた兄弟が再び出会い、親の仇討ちをする物語で、色々な劇団で演じられているお芝居です。
兄は喉をつぶされたためうまく喋れず、弟は目が見えない。
目の見えない弟に、自分こそが兄であると、懸命に伝える場面に、演者の熱がほとばしります。

このお芝居も、直後に書いたメモをそのまま載せた方が、臨場感が伝わるかもで、以下に記します:

 

序幕の雰囲気がとても良い。
どっぷりお芝居の世界。
2場の幕開けの構図もカッコいい。

毒入りの酒を飲まされ、口が聞けなくなった兄。
灰をかけられ、目が見えなくなった弟。

(10分休憩あり)

第3場 1年後、雪降る町。

劇伴がいい。よく作られていると思う。

 

「めくら」「おし」と言う言葉を使わないよう配慮している。
差別語が出てくるのは、悪役が暴言を吐く時だけ。

  

クライマックス。
兄が、天国にいる父に「弟と2人でそばに行くからな…」と言いたいのを、右手の親指と左手の2本指を近づけるジェスチャーで訴える。
力強く、心が見えるよう。

もう死ぬというとき、雪の中に「お墨付き」を見つけ、顔色を変える。
瀕死の身体で、雪をかき分け探す。
この時、わざと雪をザバーッと散らすところが格好いい。
ようやく探り当て、天に向かってお墨付きをかかげ、
ひときわ大きな、大きな、声にならない声で叫ぶ。

慎太郎座長の股旅姿はとても良い風情。
体格がいいので、迫力がある。
大袈裟な演技でも、あざとさがない。とてもストレート。

 

浪速クラブの舞台は、天井がそれほど高くないので、雪があっという間に落ちてくるから、スピード感が増すように思う。

背の高い人が3人出てきて立ち回りをすれば、舞台がいっぱいになる感じ。
そんな舞台のサイズも、味になっていると思う。

 

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澤村慎太郎座長 頭の上に雪が

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澤村慎太郎座長

 

後半、やや長くなってしまいました。
なんとか書けてよかった・・・
長々とすみません、お読みくださりありがとうございます(涙)

2021年、不安も含みつつですが、出来る限り足を運びたいです。
また1年、お付き合いいただければ嬉しいです!

* 「念仏藤兵衛」(剣戟はる駒座@6月配信)はまた別途書きたいと思います~~
   (こちらも本当に良いお芝居!)

 

 

2020年振り返り・大衆演劇舞踊書付5つ


 この1年は色々な意味で特別な1年。数えきれないですが、ひとまず・・・
めくるめく甘美な世界と妄想の扉をありがとうございます 

 

市川とと丸頑張るデイ(市川ひと丸劇団)7月25日@梅南座

15歳市川とと丸さんの、今出来ること全て出し尽くしてのおもてなしの舞台。
舞踊で女形は初めて言っておられたと思います、その初々しさにノックアウト。

 

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市川とと丸 2020.8.25@梅南座


幾分ぎこちない。でもそれも含めて全て今しか出せないみずみずしい輝きになっている。欠点じゃないんです。

大衆演劇の魅力の1つは、このような若い人たちが等身大で頑張っている姿が見られるところにあると思うこの頃。いわゆる大舞台ではベテランが席巻しているので・・・

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2020.8.25 市川ひと丸劇団@梅南座

舞台の上も客席側も、この日の若き主役の挑戦を全力で盛り上げる。

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2020.8.25@梅南座

演者と一緒にドキドキして「メッチャがんばれーっ」と叫ぶ、劇場の熱気にも酔いしれたー。

 

 

つばさ準之助祭り(劇団つばさ)9月7日@此花演劇館

劇団寿ゲスト出演での「準之助祭り」。
ミニショートップの「ON THE ROAD」から悲鳴が上がる。

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つばさ準之助座長(劇団つばさ)2020.9.7@此花演劇館


ある劇場で、ペンライトをノリノリに振りながら応援する常連さんがおられて、その方曰く「一番振りやすいのはつばさ準之助さん」で、「踊りの振りと曲の流れがぴったり一致してるんですよ」とおっしゃる。
それがどういうことなのか、正確には理解できてないのですが^^;、おぼろげにはわかるような、、、

この日、古典ものからふりふりドレスの女形まで、振り幅自在の舞踊の中で、1番声にならない悲鳴が出たのは、薄いレース地の着物での妖艶な「Despacito」。

わたしのような色気のかけらもない人間でも、性的本能を引っ張り出される。決して直接的な表現ではなく、悦びに揺れる炎のような・・・見ながら耳たぶまで熱ってしまいました。激ヤバです。

 

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つばさ準之助座長(劇団つばさ)2020.9.7@此花演劇館

 

宝海大空座長(宝海劇団)「My Heart Will Go On 」11月1日@浪速クラブ

大衆演劇の舞踊は、歌詞の当てぶりでその歌の情景を表現されることが多い。

宝海大空座長の舞踊は、当てぶりはあまり用いず、その歌の内的世界やイメージを表現している…そんな風に思います。

ショーの中盤、板付の登場で、かかる曲は「My Heart Will Go On 」、
言わずと知れた映画「タイタニック」のメインテーマで、豪華客船の中で芽生えた若い男女の恋を歌った往年の大ヒット曲。

大空さんが表現するのは、その主人公のジャックとローズではなく、ローズが持っていた幻の宝石「碧洋のハート」ではないか…と思いました。

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宝海大空座長 2020.11.1@浪速クラブ

宝石は語らない。どんな運命に会おうとも、どこまでも美しく輝くだけ・・・

映画が大好きと言っておられたので、いつか「宝海大空・名画を舞う」とか、やって欲しいなあ。。

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宝海大空座長 2020.11.1@浪速クラブ

 

 

天龍地そらさん「越後獅子の唄」12月10日@道頓堀ZAZA

そらさんの十八番舞踊と教えてもらい、駆けつけました。

森川竜馬劇団道頓堀ZAZA公演での「そら祭り」の1本は、まるで昔話の絵本から抜け出てきたような風情。

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天龍地そら・桜美照乃 2020.12.10@道頓堀ZAZA

曲自体が寂しげで哀愁漂うのですが、そらさんが醸し出すムードはどこか朗らかで、湿っぽくならない。寒いけれど晴れわたる空、みたいな・・・

アクロバティックな技もたっぷり。

相方の桜美照乃さんも、こんなに可憐なのに大技を難なくこなし、終わりと当時に「アンコール!」と叫んでしまった(心の中で)舞踊でした。

 

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天龍地そら・桜美照乃 2020.12.10@道頓堀ZAZA


  

咲之阿国さん(劇団あやめ)「女田原坂」@12月18日尼崎遊楽館

舞踊の名手は、この12月、気合がみなぎっているのを感じました。

曲紹介の時に「女田原坂」とコールされましたが、かかる曲は「田原坂」です。

阿国さんは隊士の扮装でも、きりりとした袴でもなく、どこまでもエレガントに白い着物をまとい、扇子1本で、田原坂の合戦を表します。

それは田原坂の合戦を俯瞰する天女?
隊士たちに寄り添い鼓舞する戦の女神?
物語を後世に伝える美しき語り部

時に隊士とともにたたかい、時に高みから見おろし、戦の行方を憂う・・・幾重にもイメージが交錯して、舞踊は"自決"で終わります。こうするしかない、というように。真正面を見据え、毅然と。

 

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2020年振り返り・大衆演劇お芝居書付(前編)

 

「恋慕草鞋 義仲の卯之吉」戟党市川富美雄

(10月28日夜@木川劇場)


よかったなあと思うお芝居には、3つの「よかった」があると思う。

1つ目は、物語そのものの良さや斬新さ。
2つ目は、目に焼きけられ、胸に迫る演技。
そして3つ目は、言葉の美しさやハッとさせられる表現。

「恋慕草鞋 義仲の卯之吉」は、この3つ目の「言葉」の面に、何度もハッとさせられました。

舞台は木曽の巴淵(ともえがふち)を見下ろす峠の村。
その淵の様子や、土地の名物が、登場人物が語る台詞に折り込まれ、その村の景色や暮らしが浮かび上がります。

物語は炭焼き娘のおくみと渡世人卯之吉の悲恋。

祖父の富蔵がおくみを自慢して言う台詞が美しい。

「真っ黒なねずこ炭を焼いていても おくみの心は白無垢だ」 

富蔵と卯之吉が、富蔵を恨む輩を追っ払ったまでは良かったのだけど、報復を受けてしまう。それも一番辛い形で…。

おらぁ、きっとあの世は餓鬼道で 腹ぁ空かせて夢も見ねえだろう」

富蔵の嘆きの台詞。心にあいた穴の、ふさぎようのない虚しさが響くよう。

中盤、花畑におくみと卯之吉が佇む場面はあたたかな夢のようで、思い出してはじんわりしてます。

長谷川伸さんの流れを汲む梅澤龍峰さんの作と伺い、膝を打ちました。

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同日の舞踊ショーから

 

「縁を結ぶ糸車」優伎座

(3月24日夜@鈴成り座)

以前ブログにも書いているお芝居(記事はこちら)で、2時間近い大作です。

時代は江戸から明治。生き別れた娘を生涯かけて探す男の物語。

途中、2人は、運命の糸車にたぐり寄せられるように近づくのですが、寸前のところでプチンと切れて、離れてしまう。
その時の、男の慟哭たるや。
市川英儒さんの演技から、心の軋む音が聞こえるようでした。

男が運命や時代の流れにあらがい続けるのに対し、娘の方はひたすら運命を受け入れ、流されながら生きている。

最後の最後で、男の執念が勝ったか、運命の糸車がくるくると・・・

「わたし、これまでおとっつあんに願い事したこと、ある?」

大詰めの娘の台詞です。流され続けた娘が、初めて口にした願いとは。この辺りからわたしのマスクの中は涙の海で大変なことになっておりました;;

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市川英儒座長2020.3.24@鈴成り座

 

「春の雪」劇団春駒

(6月25日夜@木川劇場)

 

二代目美波大吉座長のオリジナル狂言

舞台はある渡世人一家。
堅気になって結婚すると言う兄貴分の男(二代目美波大吉座長)を、寂しさを噛み締めながらも送り出す
弟分(遙座長)。
そこに一家宛に喧嘩状が。男は最後の務めだと一人喧嘩場へ出向く。「自分にもしものことがあったら、女房を頼む」と弟分に託して・・・

物語が動き出すのは10年後(?うろ覚えですみません)。

喧嘩の罪で刑罰を受け、ようやく帰ってきた男を待っていたのは女房の死。
一体何が。


「上演はまだ3回目なのでもっと良くしていきたい」と舞台口上で大吉座長。

確かに荒削りなところもあるけれど、それを埋めてあまりある両座長の演技に釘付けでした。

大詰めの立ち回りは凄まじい「斬り合い」。
ただ刀を振り回すだけではなく、一太刀、一太刀、叫んでいるようで。

「お前が悪いんだ。約束を破って、お前だけ」と、弟分。

逆恨みなのに、迫力に押されて、つい正当化してしまいそうになり、困りました^^;

ぶつけられる兄貴分の男の悲しみもまた、爆発して・・・

大吉座長の自然な泣きの演技と、遙座長の言葉を発するような殺陣。
かかることがあればまた観たいです。

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二代目美波大吉座長・遙座長 2020.6.25@木川劇場

 

「因果は廻る狂々と1・2」劇団荒城

(1月24日夜@篠原演芸場

この日、観終わった後に書いたメモから:

「荒城マニアの日」
劇場に入ると
ずっと雨の音が流されている。
ほぼ満席。

お芝居2本なので、舞踊ショーはあっという間に終わった。
女形は無し。みんなとっとと出てきてとっとと終わってゆく感じ。
このバッサリ感はすごい。
ここまできたら気持ち良い。

お芝居は笑い一切なしの3時間、終わったのは22時。ひええ・・・


・・・てなことを書いてました^^;
書き直すよりそのまま載せた方が臨場感が伝わるかもなので、続き載せます:

おまち役の蘭太郎さんが好演。

ジュウザの立ち回りは、ほんまに肉を断つ感じ。
正視出来ないほどの怖さ。速さ、重さ、陰惨さ。全てにおいて、別物。
なんというか、感情がこもっているのだ。 

森の場面の舞台セットが効いていた。
木が描かれた板が、何枚か並べられ、その奥で傴僂の男が歩くと、ちょうど木と木の向こうから見え隠れするよう見えて、ゾッとした。

真実をバラされる。 
おまちが親分を殺し、ジュウザを救う。
傀儡の男が言う「筋書き通りだ」・・・

 
荒城ワールドにどっぷり浸かる3時間。
「1」と「2」の同時上演で、特に「2」の方は、いくつもの伏線があっての展開なので、一度観ただけでは十分に味わい尽くせないところもあって、また観たいと思っていたら、この後、コロナで東へ行くことが叶わなくなってしまいました涙

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お芝居が始まる前の場内。すでにお芝居の世界に


後編4つまた書きます どうぞお付き合いください・・・

 

 

2020年振り返り・大衆演劇お芝居8つ

2020年の観劇記録から印象深かったお芝居8つ

  • 「義仲の卯之吉」戟党市川富美雄(10月木川劇場)
  • 「縁を結ぶ糸車」優伎座(3月鈴成り座)
  • 「春の雪」劇団春駒(6月木川劇場)
  • 「因果は廻る狂々と1・2」劇団荒城(1月篠原演芸場
  • 「菊一輪の骨」劇団寿&劇団つばさ(9月此花演劇館)
  • 「あっぱれ同心」劇団寿(6月あがりゃんせ劇場)
  • 「すりの家」たつみ演劇BOX(8月羅い舞座京橋劇場)
  • 「念仏藤兵衛」剣戟はる駒座(6月配信)


でした。。。

また書いていきます

 

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戟党市川富美雄@20201028木川劇場

 

 

ライブ配信舞踊の夢うつつ・午前2時の「恋し」〜17Live「恋川純弥のザ・フィクション」2020.9.10


2020年9月10日の夜。
途切れ途切れながら、恋川純弥さんの17Live配信を観ていた。

17Live 「恋川純弥のザ・フィクション」


いつも熱の入った内容なのだけど、
この日はまた仕込みが念入りで、何か仕掛けてきた感じがあった。

舞踊が「田原坂」づくしだったと思う。
もしかしたら違う曲だったかもしれない。
同じ歌の違うバージョン・パターンを次々踊るというもので
あんなにかっこいい!と思って見ていたのに、
起きたら忘れる夢みたいに、記憶があやふやになってしまった。

ただ、パソコンの画面を見ながら「今日は神回かも」と思ったことと、最後の舞踊が圧巻だったことは思い出せる。

 

それは夜2時くらいだったか、
ある方からの「刀舞踊が見たい」というリクエストに答えてのことだった。

予定では最後の舞踊が終わって「今日はもう眠いです」と言っていた純弥さん、
突然スイッチが入ったのか、曲を探し出し、刀を持って位置について踊り始めた。

抜いた刀がスラリと長く、重そうで、それほど鮮明でないパソコンの画面で見てもキラキラ光って、かなりの名品と思われた。

気がググッと篭められた、力強く美しい舞踊。
眠くてぼーっとしながらの鑑賞だったけど、純弥さんの集中がビンビン伝わってきて、すごいことが始まった…と思った。


純弥さんは、途中から扇を出し、くるくる操り始めた。
「あれ、扇を出したら刀舞踊じゃないんじゃ・・・」と、ツッコミたくなったその時だ。
純弥さんは扇をふわっと投げて、はらはらと落ちてくるところを刀で貫いたのだ。
まるで蝶を仕留めるみたいに。

扇を刺したまま、カメラに近づいてきた純弥さん。
よく見れば扇は破れていない。刀は中骨の隙間を貫いていたのだった。

音楽の終わりとともに、刀を鞘に収めて、終了。

唸るしかなかった。


舞踊と同様に大事なのが「カメラワーク」。
カメラが固定だから、舞い手の方が奥へ引っ込んだり、要所要所で近づいたりする。セルフカメラワークとでも言えばいいだろうか。それが完璧なのだ。

純弥さんが17Live配信を始めて確か5ヶ月。毎日配信される中で、どうすれば思った通りに映るかを知り尽くしていて、あらゆるキメ顔やポージングをフレーム内に見事にジャストフィットさせる。
計算された歌番組を見ているようだった。



この、夜2時過ぎに突如始まった舞踊を見ながら、ネット配信パフォーマンスの1つの到達点を見た思いがした。

舞台でもなく、テレビでもなく、ネットを介して繋がる、スマホサイズのフレームの新しいライブ空間。

画面に滝のように流れていたコメントやギフトが途中から途絶え気味になったのは、みんなこの舞踊をしっかり見届けたいと思ったからなのではと、想像した。
コメントやギフトが止まるとライバー側は困るのだけど、双方が、今この時に没頭していた。目が覚めたら終わっていた。本当に夢の中の出来事のようなひとときだった。

 

純弥さんは「即興で踊った」と言っていた。
踊り終えた後、クールな純弥さんには珍しく、満足そうな表情を滲ませていた。

曲は吉田兄弟の「恋し」とのことだった。

 

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恋川純弥さん 2019.6@庄内天満座での三味線演奏と舞踊

 

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お芝居「菊一輪の骨」を観て つばさ準之助座長の"氣"

「菊一輪の骨」または「ドスと草鞋と三度笠」とも。
もとは「槍供養」「下郎の首」という侍もののお芝居があり・・・

主人の名刀を預かる下郎が、旅の途中の茶店で悪い侍に粗相をしてしまった(実はハメられた)ことから刀を取り上げられ、「返して欲しくばお前の主人が土下座するかお前の首を持ってこい」と無茶を言われる。

下郎が宿に帰ってそのことを主人に話すと、主人は「自分の名誉や刀よりお前の命が大事だ」との寛大な言葉。しかし下郎は気が収まらず、自ら腹を切る。主人は泣く泣く下郎の首を切り、悪い侍の宿に乗り込んでいき、成敗する・・・

 ざっとこんなストーリーで、大衆演劇ではよくかけられる定番のお芝居の1つ。
「菊一輪の骨」は、これのやくざ版です。

個人的には下郎が可哀想すぎて、当たると辛いお芝居で、、
先日、劇団寿とゲストの劇団つばさの2人を観たくて此花演劇館に行ったら、このお芝居でした。

しかし、これまで観た「菊一輪の骨」とは様子が違いました。

1番の違いは、悪い方の親分=吉良勘助が「悪い親分」ではないことです。

驚きました。

吉良勘助は、赤穂今朝治の子分・菊松が持っていた名刀・静三郎兼氏を見て、どうしても欲しくなってしまい、酒の勢いもあって、刀を取り上げた。
そのことを後悔しながら過ごしていたところに、赤穂の今朝治がやってきた。
手にしていたのは菊松の首・・・

もう遅い。

吉良勘助は自分の非を認め「思い切りやってくれ(斬ってくれ)」と、今朝治の前に座る。

すると吉良の子分たちが親分の命乞いをする、
最初に悪かったのは自分たちだ、どうか許してくださいと・・・

これには赤穂の今朝治も、立つ腹堪え、振りかざした刀を収めます。

奪われた名刀も取り返して立ち去ろうとする今朝治を、勘助が「今一度」と引き止め、自ら小指を切り落とし、詫びを入れるのでした。

 

吉良勘助を演じていたのは、つばさ準之助座長(ゲスト出演)。
名うてのやくざ一家の親分が、刀欲しさに愚かなことをしたと恥じる気持ちがひしひしと伝わってきました。

つばさ準之助座長は舞踊の専門家で、お芝居をするようになったのは数年前とのことですが、なんだなんだこのエモーショナルな吉良勘助は・・・

 

幕切れ。

赤穂の今朝治一行が去り、誰もいなくなって、吉良勘助がただ一人座っている。
お芝居の終わりを告げる柝頭が「チョンチョンチョンチョン…」と響く中、勘助が小指を落とした青い顔のまま、頭を深く深く下げる・・・

その青ざめた顔、突っ伏した背中を観て涙が自然にこぼれました。

 

最後の最後まで詫び続ける吉良勘助が焼きついて離れず、
わたしの中で、このお芝居の主人公は完全に吉良勘助になってしまいました。

準之助座長のアレンジなのか、それともこういうパターンが存在していたのか。

まだまだ色々な演りかたがあるかもしれない「菊一輪の骨」。
いっぺんに気になる1本になりました。

 

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つばさ準之助座長

 

(2020.9.3 劇団寿@此花演劇館)

 

 

 

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