風雪よよよ旅

大衆演劇 旅芝居 寄席的なものの旅

「座長頑張る日」のこと2 優伎座 市川英儒座長の舞踊(「お梶」「お吉」「三線の花」)

 「『座長頑張る日』のこと1」の続きです。

 

お芝居仕立ての舞踊2本

優伎座・市川英儒座長がメインとなる「座長頑張る日」の舞踊ショー。

この日は女形舞踊の大作が2本も!目と心が忙しすぎました。
(以下、写真は全て座長の許可をいただき掲載させてもらっています)

 

「お梶」

暗転から板付で登場。

手持ち行燈で登場と思いきや
据え置き型の行燈を引きずって舞台中央へ

市川英儒「お梶」
2023.7.26 羅い舞座京橋劇場

多くの役者さんが勝負の1本として踊る「お梶」
英儒さんにかかればこうなるのかーーー
大胆な所作にゾクゾクさせられたかと思うと
次の瞬間、

恐れと憂いをたたえた表情に。

照明もお梶の心に呼応するように変化

ふたたび行燈とともに去るお梶

まるで行燈が分身か、唯一の支えのように…
わずかな光に吸い込まれて影だけが残る

 

「お吉物語」

市川英儒座長「お吉物語」

滅多に踊らない1本とのことで
わたしも初めて当たりました。

お吉を歌った歌をいくつかつなげて
お吉の生涯を舞踊で演じる

袖から出された赤い志古貴
お吉の心から流れる血のよう
艶やかだからなおヒリヒリする

お梶もお吉も待っているのは悲しい結末。
英儒さんはどちらもその一歩前で去っていく。

英儒さんが踊るのは、この世の人たちに、話を聞いてもらいたくて降りてきた亡き人の「魂」の踊り…そんなことを思いました。
お能のシテの舞に近いかも知れない。

 

ラスト舞踊の前に、もう1本座長の個人舞踊。
しかも「三線の花」!

イントロで客席から悲鳴が。
わたしも嬉しすぎて叫んでました笑

三線の花

市川英儒「三線の花

紗合の生地にひまわり模様。
こんな取り合わせは大衆演劇ならではですよね。
この歌と英儒さんに、めちゃめちゃ合ってる。

英儒さんの「三線の花」は
島唄づくしの万華鏡。

三線を弾いたり

お酒を飲んだり
語るような当て振り
島の家族の情景が浮かび上がる

エイサーパートでは
手足を千切れんばかりに投げ出して踊りまくる!

やがて歌のエンディング
ピアノが力強く鳴り響くなか
最後の最後で
沖縄の三板(サンバ)を叩く仕草

カチャーシーや!
これをエンディングに入れるなんて素敵すぎるーー

私的「座長頑張る日」の興奮マックスポイントで、めちゃめちゃ満たされました。

そう、英儒さんの渾身の1本は、童心に帰ってワクワクしたり、胸が締め付けられるような懐かしいものに会えたり、人間の力ってすごいなあと思わず涙が出たり…感情が忙しくて、その時は興奮状態なのですが、観終わった後、心の中がただただ綺麗なものでいっぱいになっているのです。

 

ラスト舞踊「新門辰五郎
粋な江戸っ子たちがかっこいい!



心が満たされる舞踊

少し前、図書館で目に留まった真っ赤な表紙の本。

「日本舞踊 舞踊劇選集」

40近くの台本が載っていて面白そう!
と思って借りたものの
どうするねん、この分厚さ

なんと934ページ
貸出期間の2週間では
到底読めそうにないのですが^^;

作品に添えられた舞台写真がいい写真ばかり
中でもこちら、
西川鯉三郎さんという役者さんの舞台姿に釘付け

 


調べたら日舞西川流という流派の二代目家元。
首の傾け方や手の表情、膝の曲げ方、、
言葉がなくても伝わってくるものがありますよね。
時代を越えて受け継がれ、磨かれた芸(技術)の凄さを知らされます。

 

これらの写真を見ながら、ふと「座長頑張る日」の英儒さんを思い出しました。

独特の雰囲気の中にも
芸能の先達の技が溶け込んでいる。
現代と過去、あの世とこの世が交差して
心が満たされてゆく舞踊。
力強さと、儚さと。

憑依型役者・市川英儒座長は、やっぱりどこまでも、どこまでも「まれびと」な存在だと思うのです。

 

■「日本舞踊 舞踊劇選集」
監修:西川右近
発行:財団法人西川会
平成14年 934ページ

 

 

「座長頑張る日」のこと1 優伎座 市川英儒座長の川北長次(遊侠三代)

 

 

「祭り」ではなく「頑張る日」


大衆演劇は基本1ヶ月興行で、毎日異なるお芝居や舞踊ショーが上演されます。

演目の予定表には、通い心を刺激する誘い文句がいっぱい。

「特選狂言」「新作ショー」「関西初お目見え」などなど。

中でも、よく見かけるのは「○○祭り」というイベント。
○○には役者名が入り、その人がメインになって、お芝居の主役をしたり、舞踊の芯を務めたりする日で、ファンにとっては外せないイベントです。


優伎座の市川英儒座長は、自身が主になる日を「祭り」ではなく「頑張る日」とか「いっぱい出る日」というような言い方をされています。

「頑張る日」という表現を使ったのは、英儒座長が最初ではないかな。


市川英儒座長の「頑張る日」は「捧げる日」と言う方がしっくりくると思っていて、

「座長が舞台に魂を捧げる日」

密かにそう呼んだりしています。
(もちろん毎日そうですがさらに強くという意味で)

市川英儒座長 舞踊「お吉物語」
2023.7.26 羅い舞座京橋劇場



 

 

お芝居「遊侠三代」

 

2023年7月、優伎座の羅い舞座京橋劇場公演では「座長頑張る日」が3回。
予定表が出るたびにチェックし、スケジュール調整しておりました。


7月26日「座長頑張る日ファイナル」のお芝居は「遊侠三代」。

なんと「お芝居も撮影OK」のアナウンスが。
嬉しさのあまり、声にならない声を上げてしまいました。

さらには「人斬り」役が、市川市二郎さん!

またまた声にならない叫び〜

 

三桝屋 市川市二郎

 

「遊侠三代」は、川北長次という売り出し中の侠客と、生き別れの父(または兄)との数奇な運命を描いた物語。

大衆演劇の定番のお芝居で、劇団ごとに展開や演じ方が異なります。

父と息子、兄と弟。

大衆演劇では実の親子や兄弟、師匠と弟子(芸道の親子)で演じられることが多いので、実際の関係と重なって、迫るものがあります。

 

市川英儒座長が川北長次で、実兄である市川市二郎さんが人斬り(長次の父)。

「ずっと一緒にやってきたから、兄がどう出てくるか、どうしたいのかわかる」

座長が舞台口上で言われていた通り、合わせ稽古をしなくても、舞台の二人はまるで吸い付くように、刀と刀が引き寄せ合ったり、一寸の間合いもズレることなく重なるところは、鳥肌が立ちました。

 

市川英儒、市川市二郎

 

少年のような川北長次

ややネタバレになるのをお許しいただき…

市川英儒座長の川北長次は、いっぱしの侠客なのだけど、どこか幼さがあるように見えました。

町衆からも慕われる気鋭の親分。献身的な子分を従えて、茶店での振る舞いや、野宿者への声かけなど、言動も立派です。

華も実もある侠客として、理想的な振る舞いをすればするほど、ふとした瞬間、孤独な少年の顔が覗く…

市川英儒 座長

 

それが、大詰めで、押し殺してきた本当の長次の姿ーー "親にはぐれて傷ついた少年"が、人斬りとの決闘で、一気に放たれてしまうのです。

 

市川英儒 座長

長次の慟哭に、胸が掻きむしられました。

市川英儒、市川市二郎

 

憑依型の役者

「自分はお芝居下手なんです」と座長。

「えー!?」とざわつく客席。

「いえ、本当です。下手だから、役になりきるしかないんです。兄からも『お前は憑依型だ』と言われました。それでやっていったらいいと…」

この話に、めちゃめちゃ納得というか、これまで感じてきたことの答えが詰まっていて、ものすごく嬉しくなりました。


英儒座長演じる川北長次が、人斬りにすがりついて言うセリフは、これまで観たどの「遊侠三代」とも違っていた。

あの立派な親分が、完全に「子供」になって、泣きじゃくる。

川北長次が憑依しているからこそ出てくる、父に伝えたかった言葉の数々。

その生々しさに、揺さぶれました。

 

市川侃汐朗、市川英儒
子分長吉をいたわる無言の演技

 

「芝居上手くないから、役になりきるしかない」

それはブレーキの効かない自動車に乗っているようなものとも思う。

心身ともに負担がかかる。

憑依とは、自分の身を捧げること。。

「座長頑張る日」は、「捧げる日」と思って間違いなかった。

 

心に紡がれたことば


先日、Twitter(今はXですね^^;)でこんなツイートを見つけました。

 

このツイートを読んで、すぐに思い出したのは、役者・市川英儒、その人でした。

憑依されて溢れる言葉は、天から降ってくるものではなく、英儒座長のこれまでの人生の中で紡がれ、磨かれた、心の中に詰まっている言葉。

飾らない、まっすぐな叫びにも似た言葉、
弱きものをいたわる言葉、
もう会えない人への祈りの言葉。

お芝居で座長が発する言葉の数々に、惹かれてやみません。

 

市川英儒座長 「お梶」より
2023.7.26@羅い舞座京橋劇場

 

「座長頑張る日」
次回は舞踊について、改めて書きたいと思いますーー

 

*写真は全て市川英儒座長の許可をいただき掲載させてもらっています。

 

 

こんなお芝居が観たくて大衆演劇に通うのだなあと思った『忠治一人旅』三桝屋@尼崎遊楽館2022.1.22

「忠治一人旅」は、北関東の大侠客・国定忠治が赤城の山を降りて、役人に追われながらの旅の途中に起きた出来事を描いたお芝居。

もとを辿れば新国劇浪曲、講談など数々の名演があり、大衆演劇でも「忠治と山形屋」などのタイトルで、いろいろな劇団で演じられている定番中の定番狂言です。

何度も観ているので、今、わざわざ選んでは観ないな〜という、お芝居の1つでした。

今年1月に尼崎遊楽館で観た三桝屋の「忠治一人旅」は、そんな食傷気味の思いが覆る、とても楽しく、心に染み入るものでした。

 

序幕の赤城山の場面。

「赤城の山も今宵限り…」の名台詞で知られる場面です。

隆盛を極めた国定一家の終焉。

忠治を真ん中に子分たちがかしこまり、山を渡る雁の声に聞き入る。

ここで、どんな経緯で赤城の山に立て篭もることになったかを忠治が語るのですが、実に朗々と、淀みなく、謡うような語りで、聴き惚れました。

 

市川市二郎 劇団責任者

 

寂しさが極まったところで、おむもろに忠治が刀を抜き、仁王立ち。


「加賀の国の住人、小松五郎義兼が鍛えし業物。万年溜の雪水に浄めて、俺にゃあ生涯てめえという、強え味方があったのだ…」

と、これまた有名な台詞を言うのですが、

市川市二郎さん演じる忠治は違った。

演じ方を少し、変えていました。

わたしは、この演じ方(解釈)が、とても腑に落ちて、忠治の孤独がより沁みました。

何気ない、僅かな改変なのですが、元々の「忠治」を損なうことなく、さらに納得のいく忠治像に。

 

この日は決して多くない客席でしたが、全員が全員、大きな拍手。声こそ出せませんが、みな「ええもん見た!」と、興奮。

序幕だけで「ああ今日来てよかった」と満たされた感がありました。

 

序幕は、ほぼ忠治一人の見せ場でしたが、ここから先は、劇団全員でお芝居が作られていきます。

第二場は、序幕から一転、舞台は町中。

忠治に助けられる百姓を演じた女性(お名前わからず)の、演技のうまさに唸りました。

はじめは「やくざ者は嫌いだ」と忠治を訝しげに見ていたのが、万策尽きて、藁にもすがる思いで、忠治に身の上を打ち明けるとき、粗末な着物の裾を丁寧に直し、両の手を地面に揃えて、身体を丸めるように、頭を下げる。

この仕草に、女性の心の痛みと窮状が見えるようで、胸が詰まりました。

それを受け止める忠治の義侠ぶり。

 

第三場は、お馴染み「山形屋」の場面。

ここでは山形屋藤蔵演じる真珀達也座長の体を張った悪役ぶりが秀逸。悪いのにどこか憎めない山形屋。愛嬌と色気があり、新国劇緒形拳さんを彷彿させられました。

忠治の凄みを表すには、忠治本人はもちろんですが、相手役の山形屋にもかかっているのです。

忠治の「要求」がエスカレートするほどに、山形屋のリアクションも増幅。お腹の皮がよじれるくらい笑いました。

 

真珀達也座長

 

そして大詰め。暗がりの中、ドンドンドン…と、太鼓が鳴り響き…

 

幕が閉まって、時計を見ればジャスト1時間。お見事。
周りにいた方と「面白かったですね」と思わず言い合ってしまいました。

 

「忠治一人旅(忠治と山形屋)」、こんなにいいお芝居やったんや。

 

BGMも効果的で、劇伴に動きが合っていて(合わせていて)、テンポが良く、忠治などはまるで踊っているかのよう。

半年経った今でも思い出せます。

ストーリー自体がシンプルなので、絵になる場面や、胸に迫ったセリフなどが、余計記憶に残りやすいのかもしれません。


何度も演るうちに練られて、この形に完成されたのだろう三桝屋の「忠治一人旅」。


「こんな風情のお芝居が観たくて、大衆演劇に来てるんだなあ」

そう思いました。

 

「定番」と言われるお芝居は、やっぱりよく出来ている。

それらはどうして、どうやって「定番」になり得たのだろう。

物語の良さだけではなく。真摯な演出と演技によって息が吹き込まれ、時代を超えても生きていく。

簡単じゃなく、奇跡に近いとさえ思います。

 

ちょっと話が飛躍してしまうかもですが、ウェブ版「カンゲキ」の連載「舞台裏の匠たち」の丸床さんのインタビューの言葉を思い出しました。

今、大ちゃんも、太一くんも、天才って言われるじゃない。だけど当時の稽古を見ていた俺からすると、天才じゃなくて、努力の人。あれだけしごかれりゃ、上手くなるって。 だから、大ちゃんも、太一くんも、同じ曲を踊ってても、何回でも観たくなるの。

 

 

三桝屋

三桝屋『忠治と山形屋

もう一度観たくて、公演先の劇場が発表するお外題を気にしながら、どうか行ける日に当たりますようにと願っているところです。

 

 

2020年振り返り・大衆演劇お芝居書付(後編)

2020年に観たお芝居の印象深かったものを綴る後編です:

(後半はこの4本)

 

「菊一輪の骨」劇団寿&劇団つばさ

(2020.9.2夜@此花演劇館)


加害者側の心情が胸に迫る

以前ブログに書いた通りで、敵役・吉良勘助を演じるつばさ準之助座長の、悲壮な表現に引き込まれ、マスクの中に涙が溜まってしまって困りました。

名うてのやくざ一家の親分が、刀欲しさに愚かなことをしたと恥じる気持ちがひしひしと伝わってきました。 


幕切れ、皆が立ち去った後、吉良勘助がただ一人座っている。

お芝居の終わりを告げる柝頭が「チョンチョンチョンチョン…」と響くなか、勘助が切り落とした小指のあとをかばいながら、両の手をつき、深々と頭を下げる・・・

痛みと悲しみに青ざめた顔、突っ伏した背中にのしかかる自責の念。

加害者側の心情が強く印象付けられたエンディングに、演出1つでこんなにも印象が変わるんだと、知らされた1本です。

 

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つばさ準之助座長(劇団つばさ)

 

「あっぱれ同心」劇団寿

(2020.6.30千穐楽@あがりゃんせ劇場)

 

寿翔聖座長のオリジナル・千穐楽にぴったりのお芝居


(あらすじ)

筆頭同心・藤田イボジは、自分の出世のために、文之丞一座の文七(寿美空)にあらぬ罪を着せ、島流しにした。刑を終えた文七は、イボジに復讐するため、女に化けて近づき、酒を飲ませて…

 

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寿美空若座長 「七化けの文七」の扮装で

 

文七の復讐がちょっと凝っていて、殺すのではなく「無実の罪を着せる」ところがポイント。

その文七が仕組んだ犯罪の真相を探すのが、主人公の同心(寿翔聖座長)と岡っ引きの三次(寿福丸)。

この2人、つまり実の父子が繰り広げるやりとりがとっても面白い。

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寿翔聖座長


岡っ引が舞台からはける時に、わざわざ遠回り(客席中央の花道)を命じる同心。

役の特権を行使する父に「またですかい?」と、うんざりしながら従う息子。

13歳の息子の演技に「大きくなったなー」と目を細める父に、ちょっとほろっとさせられたり。

大詰めは、客席もお芝居の一部となり、1ヶ月お世話になった劇場への感謝を込められる趣向にもジーン。

劇中劇が好きなのと千穐楽の高揚感とが相まって、感動もひとしおでした。

 

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千穐楽は楽しくてちょっと寂しくてやっぱり楽しい~



 

「すりの家」たつみ演劇BOX

(8月14日夜@羅い舞座京橋劇場)

 

たつみ座長演じる庄吉は江戸っ子と関西人の無敵のハイブリッド!?
小道具にもシビれる

 

初見は2016年で、もう1度観たいと思っていたお芝居。なかなか当たらないなーと思っていたら、口上でも「久しぶりにやりました」と言っておられました(2年ぶりと言われたかな?)

 

長谷川伸の脚本「掏摸の家」を大衆演劇版にアレンジされたそうで、すりの夫婦が主人公のテンポの良い楽しい人情劇です。

幕開け「ボーッ!ボーッ!」と、大きな汽笛が京橋劇場に鳴り響く。

そうそうこんなんだった…と4年前の記憶が蘇ってワクワク。

小泉たつみ座長演じる「すり」の庄吉は、明るく豪快で座長にぴったり。ハイテンションになればなるほど面白いので、この役であればどんなに暴走しても大丈夫(周囲は大変かもですが…笑)。

 

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小泉たつみ座長 庄吉の扮装で

 大金を手に入れて、思いつく限りのハイカラファッションで帰ってくる庄吉が、早口でまくし立てる場面も、滑舌が良いので気持ちよく、聞き惚れました。

たつみ座長が江戸っ子を演じるとき、エンジンが関西人なので(笑)、もはや無敵な気がします。

女房役の辰己小龍さんも、この夫にこの妻ありで、フツーじゃない気っ風の良さ。

・・・と、演技もストーリーも面白いのですが、もう1つ、このお芝居、たくさんの小道具が出てくるのです。家財道具に、たくさんの着物、お弁当包みにあんパン・・・

平日の「特選狂言」と謳われていない演目なのに、メンバー総出演で、この凝りようたるや、恐るべし。

途中、ホロリとさせられ、最後にまた爆笑が待っています。
本当に楽しいお芝居!

 

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小泉たつみ座長

 

  

「峠の残雪」澤村慎太郎劇団

(2020.7.26夜@浪速クラブ)

 

 力強く心が見えるような演技と、高速雪

昨年の4月、浪速クラブでこのお芝居がかけられた時、大幅に遅刻してしまい、最後の10分しか観られませんでした。

劇場の扉を開けたら、舞台はクライマックス。
紙吹雪と客席の熱気が混沌となった空気がワッと押し寄せてきて、意識がふわふわしました。

いきなりクライマックスのテンションを浴びることができるのは、遅刻者の唯一の特権です(あとは何も良いことはない…悔しいばかり^^;)


「このお芝居は1回演ったら半年はしたくない(めちゃ疲れるので)」
と、座長が口上で言われるのを聞いて以来、再演を待っていたら、昨年と同じ浪速クラブで!

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澤村慎太郎座長 お芝居の扮装で


生き別れた兄弟が再び出会い、親の仇討ちをする物語で、色々な劇団で演じられているお芝居です。
兄は喉をつぶされたためうまく喋れず、弟は目が見えない。
目の見えない弟に、自分こそが兄であると、懸命に伝える場面に、演者の熱がほとばしります。

このお芝居も、直後に書いたメモをそのまま載せた方が、臨場感が伝わるかもで、以下に記します:

 

序幕の雰囲気がとても良い。
どっぷりお芝居の世界。
2場の幕開けの構図もカッコいい。

毒入りの酒を飲まされ、口が聞けなくなった兄。
灰をかけられ、目が見えなくなった弟。

(10分休憩あり)

第3場 1年後、雪降る町。

劇伴がいい。よく作られていると思う。

 

「めくら」「おし」と言う言葉を使わないよう配慮している。
差別語が出てくるのは、悪役が暴言を吐く時だけ。

  

クライマックス。
兄が、天国にいる父に「弟と2人でそばに行くからな…」と言いたいのを、右手の親指と左手の2本指を近づけるジェスチャーで訴える。
力強く、心が見えるよう。

もう死ぬというとき、雪の中に「お墨付き」を見つけ、顔色を変える。
瀕死の身体で、雪をかき分け探す。
この時、わざと雪をザバーッと散らすところが格好いい。
ようやく探り当て、天に向かってお墨付きをかかげ、
ひときわ大きな、大きな、声にならない声で叫ぶ。

慎太郎座長の股旅姿はとても良い風情。
体格がいいので、迫力がある。
大袈裟な演技でも、あざとさがない。とてもストレート。

 

浪速クラブの舞台は、天井がそれほど高くないので、雪があっという間に落ちてくるから、スピード感が増すように思う。

背の高い人が3人出てきて立ち回りをすれば、舞台がいっぱいになる感じ。
そんな舞台のサイズも、味になっていると思う。

 

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澤村慎太郎座長 頭の上に雪が

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澤村慎太郎座長

 

後半、やや長くなってしまいました。
なんとか書けてよかった・・・
長々とすみません、お読みくださりありがとうございます(涙)

2021年、不安も含みつつですが、出来る限り足を運びたいです。
また1年、お付き合いいただければ嬉しいです!

* 「念仏藤兵衛」(剣戟はる駒座@6月配信)はまた別途書きたいと思います~~
   (こちらも本当に良いお芝居!)

 

 

2020年振り返り・大衆演劇舞踊書付5つ


 この1年は色々な意味で特別な1年。数えきれないですが、ひとまず・・・
めくるめく甘美な世界と妄想の扉をありがとうございます 

 

市川とと丸頑張るデイ(市川ひと丸劇団)7月25日@梅南座

15歳市川とと丸さんの、今出来ること全て出し尽くしてのおもてなしの舞台。
舞踊で女形は初めて言っておられたと思います、その初々しさにノックアウト。

 

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市川とと丸 2020.8.25@梅南座


幾分ぎこちない。でもそれも含めて全て今しか出せないみずみずしい輝きになっている。欠点じゃないんです。

大衆演劇の魅力の1つは、このような若い人たちが等身大で頑張っている姿が見られるところにあると思うこの頃。いわゆる大舞台ではベテランが席巻しているので・・・

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2020.8.25 市川ひと丸劇団@梅南座

舞台の上も客席側も、この日の若き主役の挑戦を全力で盛り上げる。

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2020.8.25@梅南座

演者と一緒にドキドキして「メッチャがんばれーっ」と叫ぶ、劇場の熱気にも酔いしれたー。

 

 

つばさ準之助祭り(劇団つばさ)9月7日@此花演劇館

劇団寿ゲスト出演での「準之助祭り」。
ミニショートップの「ON THE ROAD」から悲鳴が上がる。

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つばさ準之助座長(劇団つばさ)2020.9.7@此花演劇館


ある劇場で、ペンライトをノリノリに振りながら応援する常連さんがおられて、その方曰く「一番振りやすいのはつばさ準之助さん」で、「踊りの振りと曲の流れがぴったり一致してるんですよ」とおっしゃる。
それがどういうことなのか、正確には理解できてないのですが^^;、おぼろげにはわかるような、、、

この日、古典ものからふりふりドレスの女形まで、振り幅自在の舞踊の中で、1番声にならない悲鳴が出たのは、薄いレース地の着物での妖艶な「Despacito」。

わたしのような色気のかけらもない人間でも、性的本能を引っ張り出される。決して直接的な表現ではなく、悦びに揺れる炎のような・・・見ながら耳たぶまで熱ってしまいました。激ヤバです。

 

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つばさ準之助座長(劇団つばさ)2020.9.7@此花演劇館

 

宝海大空座長(宝海劇団)「My Heart Will Go On 」11月1日@浪速クラブ

大衆演劇の舞踊は、歌詞の当てぶりでその歌の情景を表現されることが多い。

宝海大空座長の舞踊は、当てぶりはあまり用いず、その歌の内的世界やイメージを表現している…そんな風に思います。

ショーの中盤、板付の登場で、かかる曲は「My Heart Will Go On 」、
言わずと知れた映画「タイタニック」のメインテーマで、豪華客船の中で芽生えた若い男女の恋を歌った往年の大ヒット曲。

大空さんが表現するのは、その主人公のジャックとローズではなく、ローズが持っていた幻の宝石「碧洋のハート」ではないか…と思いました。

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宝海大空座長 2020.11.1@浪速クラブ

宝石は語らない。どんな運命に会おうとも、どこまでも美しく輝くだけ・・・

映画が大好きと言っておられたので、いつか「宝海大空・名画を舞う」とか、やって欲しいなあ。。

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宝海大空座長 2020.11.1@浪速クラブ

 

 

天龍地そらさん「越後獅子の唄」12月10日@道頓堀ZAZA

そらさんの十八番舞踊と教えてもらい、駆けつけました。

森川竜馬劇団道頓堀ZAZA公演での「そら祭り」の1本は、まるで昔話の絵本から抜け出てきたような風情。

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天龍地そら・桜美照乃 2020.12.10@道頓堀ZAZA

曲自体が寂しげで哀愁漂うのですが、そらさんが醸し出すムードはどこか朗らかで、湿っぽくならない。寒いけれど晴れわたる空、みたいな・・・

アクロバティックな技もたっぷり。

相方の桜美照乃さんも、こんなに可憐なのに大技を難なくこなし、終わりと当時に「アンコール!」と叫んでしまった(心の中で)舞踊でした。

 

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天龍地そら・桜美照乃 2020.12.10@道頓堀ZAZA


  

咲之阿国さん(劇団あやめ)「女田原坂」@12月18日尼崎遊楽館

舞踊の名手は、この12月、気合がみなぎっているのを感じました。

曲紹介の時に「女田原坂」とコールされましたが、かかる曲は「田原坂」です。

阿国さんは隊士の扮装でも、きりりとした袴でもなく、どこまでもエレガントに白い着物をまとい、扇子1本で、田原坂の合戦を表します。

それは田原坂の合戦を俯瞰する天女?
隊士たちに寄り添い鼓舞する戦の女神?
物語を後世に伝える美しき語り部

時に隊士とともにたたかい、時に高みから見おろし、戦の行方を憂う・・・幾重にもイメージが交錯して、舞踊は"自決"で終わります。こうするしかない、というように。真正面を見据え、毅然と。

 

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2020年振り返り・大衆演劇お芝居書付(前編)

 

「恋慕草鞋 義仲の卯之吉」戟党市川富美雄

(10月28日夜@木川劇場)


よかったなあと思うお芝居には、3つの「よかった」があると思う。

1つ目は、物語そのものの良さや斬新さ。
2つ目は、目に焼きけられ、胸に迫る演技。
そして3つ目は、言葉の美しさやハッとさせられる表現。

「恋慕草鞋 義仲の卯之吉」は、この3つ目の「言葉」の面に、何度もハッとさせられました。

舞台は木曽の巴淵(ともえがふち)を見下ろす峠の村。
その淵の様子や、土地の名物が、登場人物が語る台詞に折り込まれ、その村の景色や暮らしが浮かび上がります。

物語は炭焼き娘のおくみと渡世人卯之吉の悲恋。

祖父の富蔵がおくみを自慢して言う台詞が美しい。

「真っ黒なねずこ炭を焼いていても おくみの心は白無垢だ」 

富蔵と卯之吉が、富蔵を恨む輩を追っ払ったまでは良かったのだけど、報復を受けてしまう。それも一番辛い形で…。

おらぁ、きっとあの世は餓鬼道で 腹ぁ空かせて夢も見ねえだろう」

富蔵の嘆きの台詞。心にあいた穴の、ふさぎようのない虚しさが響くよう。

中盤、花畑におくみと卯之吉が佇む場面はあたたかな夢のようで、思い出してはじんわりしてます。

長谷川伸さんの流れを汲む梅澤龍峰さんの作と伺い、膝を打ちました。

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同日の舞踊ショーから

 

「縁を結ぶ糸車」優伎座

(3月24日夜@鈴成り座)

以前ブログにも書いているお芝居(記事はこちら)で、2時間近い大作です。

時代は江戸から明治。生き別れた娘を生涯かけて探す男の物語。

途中、2人は、運命の糸車にたぐり寄せられるように近づくのですが、寸前のところでプチンと切れて、離れてしまう。
その時の、男の慟哭たるや。
市川英儒さんの演技から、心の軋む音が聞こえるようでした。

男が運命や時代の流れにあらがい続けるのに対し、娘の方はひたすら運命を受け入れ、流されながら生きている。

最後の最後で、男の執念が勝ったか、運命の糸車がくるくると・・・

「わたし、これまでおとっつあんに願い事したこと、ある?」

大詰めの娘の台詞です。流され続けた娘が、初めて口にした願いとは。この辺りからわたしのマスクの中は涙の海で大変なことになっておりました;;

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市川英儒座長2020.3.24@鈴成り座

 

「春の雪」劇団春駒

(6月25日夜@木川劇場)

 

二代目美波大吉座長のオリジナル狂言

舞台はある渡世人一家。
堅気になって結婚すると言う兄貴分の男(二代目美波大吉座長)を、寂しさを噛み締めながらも送り出す
弟分(遙座長)。
そこに一家宛に喧嘩状が。男は最後の務めだと一人喧嘩場へ出向く。「自分にもしものことがあったら、女房を頼む」と弟分に託して・・・

物語が動き出すのは10年後(?うろ覚えですみません)。

喧嘩の罪で刑罰を受け、ようやく帰ってきた男を待っていたのは女房の死。
一体何が。


「上演はまだ3回目なのでもっと良くしていきたい」と舞台口上で大吉座長。

確かに荒削りなところもあるけれど、それを埋めてあまりある両座長の演技に釘付けでした。

大詰めの立ち回りは凄まじい「斬り合い」。
ただ刀を振り回すだけではなく、一太刀、一太刀、叫んでいるようで。

「お前が悪いんだ。約束を破って、お前だけ」と、弟分。

逆恨みなのに、迫力に押されて、つい正当化してしまいそうになり、困りました^^;

ぶつけられる兄貴分の男の悲しみもまた、爆発して・・・

大吉座長の自然な泣きの演技と、遙座長の言葉を発するような殺陣。
かかることがあればまた観たいです。

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二代目美波大吉座長・遙座長 2020.6.25@木川劇場

 

「因果は廻る狂々と1・2」劇団荒城

(1月24日夜@篠原演芸場

この日、観終わった後に書いたメモから:

「荒城マニアの日」
劇場に入ると
ずっと雨の音が流されている。
ほぼ満席。

お芝居2本なので、舞踊ショーはあっという間に終わった。
女形は無し。みんなとっとと出てきてとっとと終わってゆく感じ。
このバッサリ感はすごい。
ここまできたら気持ち良い。

お芝居は笑い一切なしの3時間、終わったのは22時。ひええ・・・


・・・てなことを書いてました^^;
書き直すよりそのまま載せた方が臨場感が伝わるかもなので、続き載せます:

おまち役の蘭太郎さんが好演。

ジュウザの立ち回りは、ほんまに肉を断つ感じ。
正視出来ないほどの怖さ。速さ、重さ、陰惨さ。全てにおいて、別物。
なんというか、感情がこもっているのだ。 

森の場面の舞台セットが効いていた。
木が描かれた板が、何枚か並べられ、その奥で傴僂の男が歩くと、ちょうど木と木の向こうから見え隠れするよう見えて、ゾッとした。

真実をバラされる。 
おまちが親分を殺し、ジュウザを救う。
傀儡の男が言う「筋書き通りだ」・・・

 
荒城ワールドにどっぷり浸かる3時間。
「1」と「2」の同時上演で、特に「2」の方は、いくつもの伏線があっての展開なので、一度観ただけでは十分に味わい尽くせないところもあって、また観たいと思っていたら、この後、コロナで東へ行くことが叶わなくなってしまいました涙

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お芝居が始まる前の場内。すでにお芝居の世界に


後編4つまた書きます どうぞお付き合いください・・・

 

 

2020年振り返り・大衆演劇お芝居8つ

2020年の観劇記録から印象深かったお芝居8つ

  • 「義仲の卯之吉」戟党市川富美雄(10月木川劇場)
  • 「縁を結ぶ糸車」優伎座(3月鈴成り座)
  • 「春の雪」劇団春駒(6月木川劇場)
  • 「因果は廻る狂々と1・2」劇団荒城(1月篠原演芸場
  • 「菊一輪の骨」劇団寿&劇団つばさ(9月此花演劇館)
  • 「あっぱれ同心」劇団寿(6月あがりゃんせ劇場)
  • 「すりの家」たつみ演劇BOX(8月羅い舞座京橋劇場)
  • 「念仏藤兵衛」剣戟はる駒座(6月配信)


でした。。。

また書いていきます

 

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戟党市川富美雄@20201028木川劇場

 

 

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