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大衆演劇 旅芝居 寄席的なものの旅

大衆演劇のお芝居 身体からの言葉 2019年8月

大衆演劇のお芝居の何がすごいか。

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「役者の身体にお芝居が入っている」ところ。

先日「男人情花」というお外題を、見ている時に思った。

この日は2人のベテランが頑張る日だった。

何度も観たことのあるお芝居なので、はじめは「これかぁ…」と実は。

しかし、すごかった。

芝居が熱い。厚い&アツい。

ベテラン2人が、互いの面子をかけて演じる、

身体から振り絞るようなセリフ、「情」の表現が。

 

よくあるパターンの、やくざ渡世の義理と人情を描いたもの。

特別に凝った言い回しもなく、おなじみのセリフが続くのだけど、

2人のベテランの身体から絞り出される言葉は、まるで別ものである。

聞いていると、あったまった鍋になったみたいに身体がカッカしてきた。

序幕は様子伺いな感があったけれど、中盤あたりから勢いづき、水かさを増した川の流れのように進んでいく。 

「わたしとこの子を連れて逃げておくれ。たとえ3日、いや、2日、1日、半日でもいい。親子3人、川という字で寝てみたい」


望まぬ結婚で、女にとっては地獄の日々だった。だからもう死ぬつもりで、最後の願いを真に愛する男にぶつけた。

男はようやく「義理」より「情」を選ぶ。

すぐに追っ手がかかる。筆頭には男の弟分。

弟分も「義理」と「情」の板挟み。

 「えい!」


互いに刀を振りかざしては、止め。振りかざしては、また止める。

振り下ろされた刀は、2人の男の間に入った女の身体を貫いた…


「お吉(女の名)を一人で行かせるわけにはいけねえ」


弟分に向けていた刀を、自らの腹へと返し、突き刺した男は、

最後の力を振り絞って、刀を捨て、手ぬぐいを取り出し、女の亡骸についた血を拭って、愛おしそうに見つめ、、絶命する。。。

 

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 終演後、今日のこのお芝居、セリフ合わせなしで上演されたと言うのでびっくりした。

「昔めちゃめちゃ怒られながらやってたんでね。やってる間にもどんどん思い出すし」と、弟役の座長。

ひええ。稽古なしであの舞台だったとは…

主役の役者さんも「もう必死やったし」と笑う。

若座長が、彼にとって父と父の先輩の芝居を舞台袖から見て「いつもと違うやり方で勉強になった、思わず泣いてしまった」と明かしていた。

 

ここから先はわたしの読みですが、、、

最後に男が女の身体を拭ったのは、アドリブだったのではないだろうか。

演じているうちに自然にそうした、そんな気がした。

そしてもう1つ。

息絶えた2人を前に、呆然とする弟分の、行動。

着ていた羽織を兄貴分である男にかけようとしたが手を止めて、女の方にかけてやる

どちらも今回でなくても、何度かやるうちに、そうしようとなったのではないだろうか・・・

そんな気がする。

「誰も悪くねえ。バカなやくざ渡世がお吉をこんな姿にしたんだ…」

演じているうちに、出てくる心の言葉。

これが、大衆演劇のお芝居の領分たらしめるところではないだろうか。

セリフは舞台の上で生まれる。 

 

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